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きらっと介護

2020/12/16 東京ほくと
多職種・病棟全体で関わり飲食・発声が可能に

幼少期からの水俣病で四肢体幹機能が低下、脳梗塞を発症して高次脳機能障害が進行したA氏。精神興奮状態となり、精神科などに長期入院されていました。その間、向精神薬や四肢体幹抑制などの使用、肺炎の発症で絶食期間が続いたため、経口摂取が困難となりました。衰弱が進行して、終末期と診断されました。
看取りも視野に入れ、本当に経口摂取ができないのかを評価するために当院へ転院しました。家族は最期の時間を穏やかに過ごせるような関わりを希望されて、「本人の苦痛がないようにしてもらいたい」「可能な範囲で何か食べさせてあげたい」という想いが聞かれました。
嚥下評価・訓練として、言語聴覚士による半固形食の経口摂取を開始しました。何度か熱発を繰り返したため、解熱剤の使用や点滴投与で経過観察して、経口摂取は一時中断。しかし、口腔や口輪マッサージ、発声練習、口腔ケアなどは継続しました。解熱後、経口摂取を再開したところ、更なる嚥下機能低下にはつながらず、食思は向上しました。

野中師長(中央)と地域包括ケア病棟の看護師

言語聴覚士の訓練による3つの留意点(①経口摂取時の姿勢は完全側臥位を保持する、②嚥下を確認した後にお茶を数口飲用する、③食後は吸引をして食残の有無を確認する)をふまえ、看護師の介入も可能となりました。それにともなって食べる機会が増え、「何か食べたい」「お腹空いた」などの声出しと活気がみられるようになりました。
間食としての摂取量が増え、食事回数や食事形態が徐々に上がり、満足感が得られて「おいしい、おいしい」といった言葉も聞かれるようになりました。この頃から食後の吸引は不要となり、ケアワーカーによる食事介助も可能となったことで、病棟全体でA氏に関わることができました。当初は看取りも視野に入れていましたが、病状が安定して施設へ転院しました。 当病棟では、経験年数や看護観の違う看護師、また多職種スタッフで医療連携を図っています。多職種の経験や、技術などの情報を交換しながら看護・介護の介入をすることで、A氏の食への意識と意欲を高め、経口摂取を実現させることができました。看取りを視野に入れつつも、少しでも経口摂取をさせてあげたいという家族の想いに寄り添う看護ができたことは大きな喜びとなりました。
患者の尊厳を守るための看護、家族の気持ちを汲むための看護には、あらゆる視点で支援すること、あきらめない・引き出す看護が大切であることを改めて実感できました。

王子生協病院地域包括ケア病棟 野中 理佳