誰もが安心して住み続けられるまちづくり

医療と介護の現場 短歌でつながる介護の輪

2016/07/20 東京ほくと

 Sさんは76歳。訪問して7年になります。倒れた当初は記憶も曖昧(あいまい)でしたが、ご主人の献身的な介護で今は安定した生活をおくっています。ある日の訪問で、Sさんが若い頃文学少女で、読書が大好きだったことを話してくれました。そして「七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞ悲しき」と兼明親王の和歌をそらんじてくれました。少女時代、家族とつくりあげた生活などを感じることができました。その後、固くなった私の頭の中は五七五七七のリズムがすんなり入り込んだのです。

 施設に入所中のUさんは86歳。毎日ご主人が面会に来ます。お決まりの「どうだい?」に「変わんないよ」との返事です。ご主人の介助で車椅子に移動し、食堂まで行きます。二人の交わす言葉は少ないですが、Uさんは「毎日ご主人の顔色見て、大丈夫かなって思っているの」と話します。長年連れ添った夫婦だからこその思いやりと愛を感じました。そこでできた私の一句『われの背に両手まわしてかつぎたる古き伴(はん)侶(りょ)に こころ落ち着き』です。つたないながらたんぽぽ便りに載せて利用者さんにお渡ししました。

 Nさん91歳、奥さんとの老々介護です。たんぽぽ便りを見て、「ちゃんと勉強したわけじゃないけど…」と言いながら「私もね、年末に来年はどういう年にしようかと考えて歌を作るの。今年の句はね、『あらたまの 年の初めに思いしは日々健やかに笑みを忘れず』なのよ」と。なんて素敵な誓いでしょう。

 訪問看護ステーションたんぽぽ看護師 菅原 晴美