東京ほくと12月号 病気の話
大人の発達障害
鹿浜診療所 所長 平山陽子
「発達障害」とは生まれつき脳の発達が通常と異なることで、生活に支障をきたしてしまう状態を指します。現在は、「神経発達症」が正式な名称です。発達障害は大きく分けて3つあります
「自閉症スペクトラム障害(ASD)」言葉の発達の遅れやコミュニケーションの障害を持つ症状。対人関係が苦手で、パターン化した行動やこだわりを持つ人が多い。ASDのうち、知的障害を伴わないものを「アスペルガー症候群」と呼ぶこともあります。
「注意欠陥多動性障害(ADHD)」不注意、多動(じっとしていられない)、衝動的に行動する(考えるよりも先に動く)などの特性をもつ症状です。
「学習障害(LD)」知的な遅れはないが、「読む」「書く」「計算」などが極端に苦手な状態です。
文部科学省が2012年に行った調査では「学習面、行動面で著しい困難をきたす」小中学生の割合は6.5%とのことであり、1クラス40人のうち2~3人に発達障害の疑いがあるということになります。
現在の30歳代以上の人が子供の頃には発達障害の概念はあまり知られていなかったため、特性に気づかれず大人になり、環境の変化(就職、結婚など)で表面化するケースが多くなっています。
Aさんは40代男性。長年父親の経営するプラスチック加工業を手伝ってきましたが、工場の老朽化で家業を閉めることになり、得意先の会社に再就職をしました。これまでと違うパソコン業務でミスが続き、上司に叱責されることが多くなってきました。最近は、朝起きて仕事に行くことを考えると胸がドキドキして止まらず、とうとう仕事に行けなくなり、外来を受診しました。同席した母親にたずねると子供の頃から虫が好きで休日は虫取りに没頭していた。友人は多くなかった。非常に真面目で融通が効かず宿題が完璧にできていないと学校に行きたくないなどという子供だったそうです。
Aさんはコミュニケーションが苦手やこだわりなどASDの特性を持っていました。これまでは父と2人で慣れた仕事をしていたため、表面化しなかったのでしょう。新しい職場で慣れない仕事や人間関係のストレスがかかり、不安が強くなって動悸症状が出てきたことが考えられました。
主治医はAさんの特性について説明し、不安が強くなっているので一度仕事を休むように進めましたが、Aさんはお薬を飲みながら仕事を続けたいと希望しました。幸い、職場はAさんの特性に理解を示し「あいまいな言葉は理解できないので、指示を出す時は具体的に行う」「マルチタスクが苦手なので一度にたくさんの仕事をさせない」など、仕事の仕方に配慮をしてくれるようになり、Aさんの不安は軽くなっていきました。
【発達障害かもしれないと思ったら】
これを読んで不安になった人もいるかもしれません。発達の凸凹がある人は多く、定型発達と発達障害の境目ははっきりしません。私自身も子供の頃から「忘れ物が多い」「不注意」などADHDの傾向があります。
発達障害について書かれた本はたくさんありますから、まずは一冊読んでみて、自分の特性について知り、周りにも知ってもらうことをお勧めします。「私は〇〇が苦手だから・・・」と周囲に自分の特性を知らせるのも良いでしょう。
特性が仕事や人間関係に重大な影響を及ぼすときには、相談が必要になります。
住んでいる区にある「地域障害者相談支援センター」などの窓口を利用しましょう。強い不安や気分の落ち込みを感じた時は「精神科」や「心療内科」などに相談することもできます。





